military.comがロシア海軍の未来に関する記事を報じました。著者はロバート・ファーレイ博士(Dr. Robert Farley)。2005年からパターソン・スクール(the Patterson School )で安全保障と外交を教えています。
ロシア海軍の命運は尽きたか?
ロシア海軍の未来はどんなものでしょうか?。ロシア海軍の部隊は重要な役割を演じてきましたが、それらの能力は、よくても、まちまちでした。ロシア海軍はウクライナの各地で目標に対して港を封鎖し、ミサイルを発射するのに成功していますが、その最中に、黒海艦隊の旗艦を失い、最も重要な揚陸艦の一隻を失い、スネーク島を支配するのに失敗し、ウクライナ沿岸で決定的な上陸作戦を遂行するのに失敗しました。
ロシア軍は将来において、相当な予算上の制約に直面するでしょう。ロシア経済は今のところは予想以上に経済制裁を持ちこたえていますが、この状況は、特にアメリカが同盟を維持できるなら、長期間持続しそうにありません。現時点で、海軍がそれ自体を維持するのに十分な資源を意のままにできるかは明らかではありません。
ロシア海軍の戦略的展望
戦略的に、ロシア海軍の状況は過去数ヵ月間にわたり大幅に変化しています。バルチック諸国はフィンランドとスウェーデンのNATOへの加盟によって、事実上、ロシアに門戸を閉ざします。想定される紛争において、ロシアの戦闘艦(潜水艦を含め)が即座に破壊される危険なくバルト海を利用することはなさそうです。フィンランドの加盟は北方でのロシアのアクセスをより複雑にして、NATOに弾道ミサイル艦隊を含む北極の主なロシア海軍基地をより見えやすくします。ロシアは太平洋ではずっと柔軟でいますが、日本の再軍備と、切迫が増す東京とモスクワの間の関係は重要な行動を考えることを難しくします。
特に、黒海ですら今やロシアには危険です。もし、ウクライナがこの戦争を政治的に生き残れば、間違いなく作戦を危険にする対艦兵器を所有するでしょう。トルコは、NATOの他の国との難しい関係にあるものの、今や黒海で主要な海軍力を保持します。
ロシア海軍の水上艦隊
ロシアの水上艦隊は生産基盤から危機的状況にあります。ロシアは性能への懸念から22610計画の哨戒艦の調達をやめたとされます。アドミラル・ゴルシュコフ級フリゲートの平均造船期間は十年間以上で2006年に1隻目が着工してから引き渡されたのは3隻のみです。理論上、ロシアは海外から戦闘艦を購入するかもしれませんが(中国は最もありそうで、現実に唯一の将来の輸出国です)、これは通貨が必要で、国内の産業の不足を認めることも必要です。
既存の艦隊には大きな問題があります。一つの迫り来る疑問はロシアの航空母艦、アドミラル・クズネツォフに関するものです。クズネツォフは現役の戦闘艦として15年以上を就航し、数回の火災を含めた複数の機械的な故障とクレーンの倒壊を被ってきました。艦は2017年以降、出港しておらず、これはロシアの海軍飛行士の候補生がほぼ確実に友好な部隊として存在していないことを意味します。32年間で艦は世界で最古の空母ではないものの、修理の後の長い寿命を想像するのは困難です。
艦隊の中の他の2つの大きな水上部隊は、2隻の生き残っているキロフ級のクルーザー戦闘艦のピョートル大帝とアドミラル・ナヒーモフです。前者が戦争で簡単な役割を果たしているのに対して、後者は過去20年間にわたり修理中す。2隻の艦は十分に姿を見せる価値があり、ピョートル大帝はそうした役割でよく使われています。しかし、後者と同じく、悲しむ人もいないモスクワとその姉妹艦は、最小限の地上攻撃能力を持ち、どちらも優れた標的となるでしょう。キーロフ級とスラヴァ級はいずれにせよ非常に古く、ロシア海軍の将来のもっともらしい基盤とは見なされません。
ロシアの水陸両用艦隊は戦争中に、オデーサでウクライナ軍を一時的に釘付けにした程度を除いて、戦争中に非常に役に立たないことが証明されました。艦隊がオデーサへの強襲を行ったり、スネーク島に補給を行えないことは、ロシアの能力に重大な欠如があることを示します。フランスのミストラル級のような大型で平らな甲板を持つ揚陸艦の存在は紛争の初期に影響力を持つでしょうが、ウクライナが相当数の対艦ミサイルを獲得した現在、そのような艦は相当危険でしょう。ロシアがミストラル級に似た大きさの揚陸艦2隻を計画していますが、政府が艦の費用を支払えるかやロシア産業界が実際にそれらを建造できるかは明らかではありません。
潜水艦
一方、潜水艦はロシア海軍力の中核のままです。ロシアの軍艦建造産業はソ連崩壊後に衰退しましたが、潜水艦の建造は急速に回復しました。ロシアの通常型および原子力潜水艦は外国の艦と競合を維持します。ウクライナとの戦争で、潜水艦は封鎖の強化を助け、国中の目標に戦略ミサイル攻撃も発射しています。しかし、潜水艦は能力の点では多くを提供できても、機能する水上艦の機能を代替することはできません。
まとめ
ロシア海軍の歴史はよく言っても不完全で、短中期的には、哨戒機と潜水艦の艦隊以上の海軍力を放棄するべきだという強い主張があります。一方、ロシアは、その水上艦隊が主要国との考えられるほぼすべての紛争で生き残ることができず、水上艦隊を建造または維持する余裕がない可能性が高いという喜ばしい偶然を享受しています。
一方でプーチン大統領は、大型で強力な水上艦が提供できる威信と威嚇の要素を明確に評価しています。ロシアがその水上艦隊によって提供される戦力投射能力を維持するために必要な投資を行うかどうかはまだ分からないままです。
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【私のコメント】
一人のコメントだけで結論を出すべきではありませんが、ここに示されたロシア海軍の危機的状況は注目に値すると考えます。明らかに長期間にわたる再建の計画とその実施が必要なロシア海軍ですが、その最中にロシアがなぜ大きな戦争を目論んだのかが、ここで一層引き出された気がします。
プーチンは艦隊による「威信と威嚇」を評価しているとはいえ、それは実力を備えての上の話です。現状を正確に把握せず、ロシアは偉大な国だという妄想に取り憑かれた頭しかないのかもしれません。
海軍の兵器はハイテク化しています。高度な兵器を持つ方が勝つのが海軍の戦闘です。陸上戦闘とは違い、人よりも機械の要素が多いのです。こうした兵器を建造して、維持して行くのには大変な費用がかかります。それをウクライナとの戦争で使い果たし、労働力の基盤になる若者が死傷している訳ですから、艦隊の再建もまた困難になるでしょう。
こうした影響が今度、どんな形で現れてくるのかに注目しなければなりません。ロシア政府の崩壊まで行くのかもしれません。そこで思い出すのは、このエピソードです。ソ連崩壊後、資金の供給が滞ったため、ソ連海軍は電気代を電気会社に支払えなくなりました。滞納の結果、海軍基地への送電が止められました。その基地には原子力潜水艦もあり、これは動いていなくても冷却ポンプを動かさないと原子炉がメルトダウンします。さらに潜水艦も溶けて高熱の鉄が海水と接すると巨大な水蒸気爆発が起こり、原潜が破壊されるだけでなく、放射線が周囲に飛び散ります。慌てたロシア海軍の幹部は電気会社に押しかけ、会社幹部に銃を突きつけ、「今すぐ電気を流せ。さもないとお前の頭を銃で撃つ」と、実際に銃口を向けながら脅したとか。すぐに送電が再開され、事無きを得たそうです。
2022年07月08日
ロシア海軍に未来はあるのか?
posted by スパイク通信員 at 10:34| Comment(0)
| 日記